International marriage

第4話:国際離婚と子供の権利 -夫から逃れて子供と日本に帰国した場合の法律問題

性格の不一致、その他様々な理由から訪れる離婚の危機。国籍が違う夫婦の場合、いずれか一方が母国へ帰国することが多いでしょう。ご夫婦だけならば「どうぞご自由に」ですが、子供がいた場合はそう簡単にことは進みません。親権は、金銭的な解決のように「妥協」することができず、最後まで骨肉の争いが繰り広げられることも何ら特別なことではありません。

さて、とにもかくにも子供を連れて日本に帰国した場合、どんな法律問題が発生するのでしょうか?以下、日本人妻Aが、シンガポール人夫Bを置いて、シンガポールから3歳の子供を連れて日本に帰国した場合を事例とします。

2014年4月1日に、日本が締結した「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」がいよいよ発効し、制度が大きく変更されました。これまでは、妻Aが子供と帰国した場合、シンガポール法に従って子供と一緒の帰国が「不法」とされたとしても、子供の返還には、日本の法律に従って、シンガポールでの判決を日本の裁判所に「承認」してもらい、「人身保護請求」をしたり、日本の家庭裁判所に対し子供の引き渡し審判をしたりしなければなりませんでした。

しかし、2014年4月1日以降の帰国からは、夫Bは、シンガポール法で「不法」である場合には、日本の外務省、または、シンガポールの社会・家庭振興省に対して、子供の返還の支援を要請することができることになりました。

日本で弁護士の紹介などの支援を受けた夫Bが、日本の裁判所に対して子供の返還を申し立てた場合、日本の裁判所は連れ去りが「不法」か否かを、シンガポールの法律に従って判断することになります。そして、その他の要件が整っていれば原則として、妻Aは子供をシンガポールに返還しなければならなくなります。その裁判では、妻Aは、「子供が日本の生活に馴染んでいる」「返還すると重大な危険がある」など、返還拒否の事由を主張することになります。

ハーグ条約は、冒頭で「子の利益が最も重要」であるとの基本的な精神を確認しています。背景には、子供が親に育てられる権利、親から分離されない権利、また、親と直接の接触をもつ権利を定める「子供(児童)の権利条約」があります。

子供の権利条約は、世界193ヵ国が締結した、ほぼ全人類の合意事項です。そして、そこには、子供を大切に思う世界中の人々の気持ちが込められています。この条約は子供の「遊ぶ権利」などの微笑ましい規定を設ける一方、子供の軍隊への採用を控えること、子供の売春や人身取引を防止することを国に求めるなど、子供を取り巻く世界の問題も浮き彫りにしています。離婚の決断に悩まれた場合、もしよろしければ一度子供の権利条約に目を通してみて下さい。何かのヒントになるかもしれません。