約2000万件の顧客情報を不正に持ちだした事件が日本のニュース番組を賑わせています。
被疑者は、不正競争防止法の定める営業秘密侵害罪の容疑で逮捕されましたが、私の近くでも、決して少なくない方々がお子様の情報を流出される被害に遭われており、実に大きな流出事件だったことを実感します。
このような事件は、こと技術大国の日本において、海外に技術が流出する形で繰り返し発生してきました。顧客情報や技術などの企業秘密を売却して利益を得ようとして、不正な方法で情報にアクセスしたり、アクセス権限を悪用して流出させたりする行為は、不正競争防止法によって、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金が課されています。
この行為を例えばシンガポールのコンピューターから行った場合でも、日本の不正競争防止法によって処罰されるのでしょうか。
日本の法律の効力は、原則として、日本国内にのみ及ぼされます。そのため、海外で日本の法律に違反する行為をした場合には、その法律に従って処罰されないのが原則です。
しかし、国際化が進み、インターネットで世界中の情報が繋がれた現在、海外において日本の法律に違反する行為に対して、日本の法律の効力が一切及ばないとなると、日本の国益や、国民の保護を図れない場合が出てきてしまいます。
そのため、特別に法律で、海外での違法な行為に対しても日本の法律が適用される旨の規定を設け、これらの海外での行為も取り締まる法律があり、不正競争防止法は、まさにその法律の1つなのです。
2005年の同法の改正により、日本国内で管理されている情報を海外で不正に使用したり開示する一定の行為に対しては、国内で不正使用をする場合と同じく、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金が科されることになりました。
例えば今回の顧客情報の流出事件のように、日本国内で管理されている顧客情報をシンガポールから不正にアクセスして情報を入手し、売りさばく行為や、他人が不正に持ち出した情報をシンガポールで売りさばく行為も、日本の不正競争防止法違反の罪に問われる可能性があるのです。
そして「警視庁、シンガポールの捜査当局に捜査共助」などと新聞に見出しが躍るなんてこともあり得るわけです。
この他、海外支店での業務上横領(10年以下の懲役)や、海外出張中の夜の街での18歳に満たない者の買春(5年以下の懲役または300万円以下の罰金)など、意外に多くの日本の刑罰規定が、海外での犯罪行為にも適用されます。開放的になりがちな海外生活だからこそ、今一度、襟を正し、脇を締めていきましょう。