Entering Japan

第6話:アジアから日本に進出、日本での会社設立

アジアでふと入ったB級ローカル食堂の味と雰囲気に感動し「日本でもきっと流行るだろうな」とか、「市場で出会った雑貨を日本でも取り扱ったら面白いのに」などと思ったことはありませんか。「雑談レベルで始まった話に、ローカルのパートナーがやる気を示し、日本の友人もビジネスに参画してくれそう」ということも、日本とアジアを股にかけて活躍されている皆様には、決して珍しい光景ではないでしょう。

今回は、以下の登場人物が意気投合し、日本でラクサ店を営む会社を設立することになった事例を取り扱います。

Aさん:当初駐在員として在星を始めるが、一念発起して起業、成功して余剰資金もできてきた。最近は結婚もして、シンガポールに根を張り、完全帰国するつもりはない。ただ、昔から何か日本でビジネスをしたいと考えていた。そういえば自分の故郷には、シンガポール料理店はない。Bさんのラクサをこよなく愛している。

Bさん:シンガポールの超有名ラクサ店の親父さんで、Aさんの知り合い。料理の腕は確かだが、年も年だし技術を伝承したいと考えている。日本に月何日か滞在するのはいとわないが、そのビジネスにお金を費やすのは及び腰。

Cさん:Aさんの旧友で、地方中核都市で父の代から不動産賃貸業を営む。最近、1階のラーメン屋が立ち退いた。商店街の青年部に所属し、街の活性化をライフワークにしている。堅実経営を旨とし、余剰資金があるわけではない。

Aさんのビジネスには、Bさんの調理ノウハウが絶対に必要です。また、日本で日々の事務をこなす必要がありますし、日本で会社を設立するためには、日本の居住者が最低1名代表者となる必要があり、Cさんの参加も絶対です。

このように、このビジネスを成功させるためには、アイディアとお金を出すAさん、ブランド力を提供し技術指導を行うBさん、会社運営の全般の実務を行うCさんという、立場の違う3人の利害を、絶妙に調整してくれる会社形態が必要であり、この頃、2006年の会社法施行に伴って導入された「合同会社」(いわゆる「日本版LLC」)が、特に海外からの進出事例で積極的に採用されるようになってきました。

日本で最もよく用いられる株式会社は、出資者が出資した割合に比例し、儲けた配当にあずかり、会社の様々な事項を決定する議決権も、出資割合に応じます。しかしこれでは、お金ではなく技術・ブランド力を提供するBさん、労務を提供するCさんに報いることができず、お金を出すAさんの独裁経営を許してしまいます。

この点、合同会社では「出資の割合と、利益の配当および会社の議決権の割合をリンクさせず、自由に決定して良い」ルールとなっており、例えば、利益配当は、AさんとBさんとCさんとで、出資比率に関わらず、3等分と定めることができますし、会社の意思決定はAさんとCさんの2人に委ねる設計も可能なのです。

メンバーが変わっても、飲食業等の許認可を取り直す必要もありませんし、銀行口座も開設でき、メンバー間のお金の管理も容易になります。また、倒産したとしても、連帯保証していない限り、出資者が会社の責任を肩代わりすることもなく、合同会社でも会社組織を作る恩恵にあずかることができます。「取締役会」や「監査役」などを設置しなくてもよい簡便さや、設立費用も、株式会社より安い点もメリットです。

「株式会社という信頼」が必要になったり、仲間内だけのビジネスではなく、日々の業務には関わらない外部からの出資を募ったりしたいと考えたときに、途中で株式会社に変更することもできますので、日本での事業のスタートに選択肢として入れて頂ければと思います。

無性に、濃厚なラクサが食べたくなりました。皆様の日本への投資を、心よりお待ちしております。